「どぶ板選挙」という言葉をご存じでしょうか。一般には馴染みがあまり無いかもしれませんが、政治や選挙の世界ではよく使われる用語です。
どぶ板選挙とはどういうものであるのか、詳しく説明いたします。
「どぶ板選挙」とは、候補者が直接有権者のところへと足を運び、地元の町や村をくまなく回る選挙活動のことです。地元の有権者と候補者とが直に接触することで、強く支持を訴えるのです。
どぶ板選挙という言葉は、昔の日本の家屋形態と関係しています。「どぶ板」とは、昔の民家の前に張り巡らされた、排水溝(どぶ)を覆うために使われていた木の板を差します。
要するに、候補者が選挙区内の狭い路地を、どぶ板を踏みしめて歩きながら、住民に声をかけて支持固めをしていったのです。歴史的には、戦後の日本で地方選挙が活発化した時期に、このような選挙活動が広がり、「どぶ板選挙」という表現が定着しました。
どぶ板選挙の手法は、特に地方の選挙や小選挙区で多く見られます。なぜなら、都市部ではマンションなどセキュリティの強い集合住宅が多く、道ばたや家の軒先、庭先などで、気軽に候補者と有権者が触れ合う機会が生まれにくいからです。
都市部では人間関係も希薄である傾向が強く、家族や親戚、隣人同士であってもお互いに干渉し合わないような価値観が尊重されがちであることから、どぶ板選挙のように、候補者と有権者との密な人間関係の構築も避けられます。
また、選挙区の種類からいえば、小選挙区と比例区を比較すると、比例区はあまりにも選挙区が広大であるため、有権者一人ひとりとのやり取りは選挙戦術として効率的であるとはいえません。
加えて、「どぶ板選挙」という言葉を使う場合、政治家が選挙活動において、ひたすら地道な活動に励むことを強調する意味合いも含みます。候補者が自らの選挙区内の隅々まで足を運び、住民と親しく接する姿勢は、都市型の選挙活動とは対照的な、草の根的な運動をイメージさせるのです。どぶ板選挙を行うことによって、票が定着し選挙に強くなることから、どぶ板選挙は地域密着型の選挙戦術として、これまで評価されてきました。
「どぶ板選挙」が高く評価される理由のひとつは、候補者が有権者と直接的に接触する点にあります。候補者が実際に地域を歩き、住民と対話を重ねることで、より深い信頼関係を築くことができるのです。
選挙活動では、候補者の姿勢や人柄が大きな影響を与えるため、候補者と有権者とが顔を合わせることは、非常に強力なアピール手段となります。
どぶ板選挙のような選挙活動の手法を、「地上戦」と呼びます。地上戦に対して、不特定多数に向けた、テレビなどへの露出や街頭演説、ポスティングなどを「空中戦」と呼びます。地上戦が一人ひとりとの丁寧なコミュニケーションを大切にするのに比べ、空中戦は、いかに効率的に、多くの人に候補者の顔と名前を知ってもらうかが重要視されます。
「地上戦」の魅力は、何よりも接触の質にあります。テレビやポスターでは伝えきれない候補者の人間性や政策への思いが、直接会話を通じて伝わることは大きな強みです。
また、有権者は候補者と個別にやり取りをすることで、より自分の声が政治に反映されると感じ、選挙への関心が高まります。地上戦を行うことで、候補者は選挙戦において有権者の心に強く残り、投票行動にも大きな影響を与えることになります。
加えて、どぶ板選挙のような地上戦を通じて築かれる候補者と有権者の信頼関係は、選挙期間以外にも大きな力を発揮します。候補者が繰り返し地域を訪れることで、地域住民との絆が次第に深まり、日常的な問題や課題に対しても、住民からの信頼を得やすくなるのです。
このようにして得られた信頼は、日常のさまざまな活動においても重要な基盤となり、議員としての活動を支えてくれることになります。
「どぶ板選挙」は、候補者が地域住民と直接接触することが特徴ですが、その中で特に注意しなければならないのが、公職選挙法138条です。
公職選挙法では、「戸別訪問」の禁止が規定されています。公職選挙法では、選挙運動を行う際に、候補者やその支援者が住民の自宅などを直接訪問して選挙活動を行うことを制限しています。具体的には、ドアをノックして、候補者を支持してほしいと直接頼む行為が該当します。戸別訪問が禁止される理由は、選挙の公平性を保ち、買収などの温床を防止することなどがあげられます。
一方、どぶ板選挙は、直接的な戸別訪問は行いません。どぶ板選挙では、候補者が選挙区を歩き回る中で、有権者と顔を合わせるものであり、あくまで公共の場での活動に限られるのです。
どぶ板選挙は、有権者と直接接触し信頼関係を築く強力な手段ですが、公職選挙法に則ったルールを守ることが重要です。特に、戸別訪問は基本的に禁止されているため、候補者および陣営は、法規定に違反することがないようしっかりと確認を行いましょう。
選挙運動の具体例をいくつかあげますので、参考にして下さい。
許可される選挙運動の具体例 |
禁止される選挙運動の具体例 |
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田中角栄元総理は「どぶ板選挙」を徹底した、まさにどぶ板選挙の代名詞ともいえる政治家です。田中角栄が提唱する選挙戦術は、地域密着型の活動であり、直接有権者に働きかける地上戦の象徴とされてきました。田中角栄は、自身の地元である新潟県において、どぶ板選挙の手法を駆使し、地方の隅々まで足を運び、住民一人一人と顔を合わせて支持を訴えました。
田中角栄が「どぶ板選挙」を大切にした背景には、当初、地元選挙区での基盤が弱かったことがあげられます。落選経験もある田中角栄は、名門の生まれというわけではなく、世襲政治家でもなかったことから、選挙に勝ち続けることの難しさを、誰よりも知っていたに違いありません。中央政界で自らが目指す政策を実現するためには、どぶ板選挙によって選挙地盤を揺るぎない確かなものとする必要があったのです。
田中角栄によるどぶ板選挙の最大の特徴は、人間味を忘れないことと、地域重視の姿勢を貫くことでした。田中角栄は、「歩いた家の数しか票は出ない。手を握った数しか票は出ない」という哲学をもち、あえて白いズボンをはいて、ズボンの汚れを気にすることなく田んぼの中に入って行き、農作業中の有権者に握手を求めたそうです。「選挙は川上から」という言葉にも、都市部ではなく過疎地や、訪れるのが大変な選挙区の最先端部分にこそ目を向ける、すなわち、地域を何よりも大切にする田中角栄の政治信条がよく表れています。
田中角栄の選挙活動に対する考え方は、いまなお多くの政治家に大きな影響を与えています。特に「地元との絆」を大切にする選挙スタイルは、田中角栄を師と仰いだ小沢一郎をはじめ、あまたの政治家にも受け継がれています。選挙区内をくまなく歩き回るどぶ板選挙は、選挙活動の基本として推奨されているのです。
「どぶ板選挙」のことを英語では、一般的に「a grassroots campaign」や「a door-to-door campaign」などと表現します。草の根運動や戸別訪問などのイメージです。
日本における「どぶ板選挙」は、地元密着型の活動と同義のものとして捉えられていますが、海外でも似たような選挙活動は行われています。例えば、アメリカでは政治活動が盛んで、候補者やその支援者が家庭を一軒一軒訪問して有権者に政策を説明し、投票を直接呼びかけます。特に、大統領選挙などではこのような活動が活発に行われます。
「どぶ板選挙」において、握手は、候補者と有権者との心の距離を縮める最も基本的かつ効果的な手段のひとつです。握手は相手との身体的・直接的な接触を通じて、候補者の誠実さや人間性を瞬時に伝えることができ、信頼関係の構築に大きく貢献します。
握手のコツは、しっかりとした力で、相手の目を見ながら、笑顔で行うことです。こうすることで、親しみや安心感を与えることができます。一方で、あまりに力強すぎる握手や、弱すぎる握手も逆効果です。強すぎると威圧感を与え、弱すぎると信頼感が伝わりません。
長期にわたってコロナ禍が続いたこともあり、身体的な接触を避けるために、握手以外のアプローチも生まれました。例えば、グータッチや肘タッチです。もっとも、握手が最も相手との心理的距離を縮めるものであるとして、ここ最近は、以前のように握手を求める候補者が多い印象です。
選挙活動における地上戦の重要性は先に述べたとおりですが、日頃から、地上戦と同じような効果をもつ活動を行うことが大切です。具体例をあげますので、出来そうなものがあれば、ぜひ取り組んでみて下さい。
選挙仕事人では、選挙ポスター、選挙看板、選挙タスキ、選挙カー、スピーカー音響セットなど、選挙に必要なツールを幅広くご提供しています。必要なものがございましたら、どんなことでもお気軽にご相談ください。
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「どぶ板選挙」は、候補者と有権者の強固な結びつきを作る、大変有効な選挙活動の手法です。有権者と直接触れ合うことは、一般社会に生きる人々の多様な思いに接し、その思いや考えを政策や政治行動に反映することに役立ちます。
近年は、インターネットやSNSを使った選挙活動が大変注目されていますが、いつの時代であっても、選挙活動の根底にあるのは人間関係の構築です。どぶ板選挙は、これからも候補者の確かな選挙基盤を作るものとして、無くなることはありません。
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